前回に引き続き、会社のお客様に対する司法書士のお仕事内容を紹介していきます。
2 売掛金の回収
無事に、合同会社熊本エントラストを設立した縁さんは、売上げを順調に上げていきました。
一方、常連のお客様であるAさんがツケで飲食するようになり、常連であるため、縁さんはAさんに強く請求できないでいました。そうしていたところ、ついに、ツケの合計金額が20万円となってしまいました。
縁さんは、Aさんから20万円を分割で支払ってもらうように念書を書いてもらいましたが、約束どおりの支払はありませんでした。
いくら常連のお客様とはいえ、ツケを全く支払わない態度に業を煮やした縁さんは司法書士に相談をすることにしました。
司法書士に相談したところ、請求する金額が140万円以下であれば司法書士に代理人を依頼することができること(簡裁訴訟代理)、Aさんに飲食代金20万円を請求する手続きとして以下の裁判手続きがあること、の説明を受けました。
①調停
当事者間での話し合いによる解決が望ましい場合(例:親族間や近隣住民同士の紛争)や、証拠が不十分で訴訟で争っても勝訴することが難しい場合に適しています。この手続きは、非公開で行われます。しかし、相手方が調停に応じない場合はそのまま調停不成立で手続きが終了してしまい、時間と費用が無駄になってしまいます。
また、熊本県司法書士会でも、司法書士が調停人役となり、お互いの話を十分に聴きながら、円満な解決を目指す「話し合いセンターくまもと」を設置しています(ただし、紛争金額が140万円以下に限ります)。
②支払督促
金銭その他の代替物等の給付を目的とする債務の履行が任意に履行されないが、相手が請求そのものについて争うおそれがほとんどない場合に適しています。申立時に証拠が不要で、申立手数料(収入印紙)が訴訟の半額で済みます。また、異議を出されて通常訴訟に移行しない限り、裁判所に出頭する必要がありません。
債務者(お金を支払う等の義務のある人)から2週間以内に異議の申立てがなければ、裁判所は、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者は簡易・迅速に債務名義(債務者の財産を差し押さえるために必要な書類)を取得できます。
しかし、相手方が異議を出すと通常訴訟に移行してしまいます。また、相手方の住所地の簡易裁判所にしか申立てができません。
③少額訴訟
訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用ができ、原則、1日で審理をします。しかし、被告(訴えられた人)からの求めがあると通常訴訟に移行します。
④通常訴訟 話し合いによる解決ができない場合や権利関係を明確にしておきたい場合に適しています。労力と時間を最も必要とします。また、手続きに関しては、公開されます。
⑤訴え提起前の和解
民事上の争いについて当事者間で合意が成立した場合は、簡易裁判所に和解の申立てをして、簡易に債務名義を取得することができます。金銭その他の代替物を対象としている場合は、公証人役場で作成する「強制執行認諾文言付公正証書」を利用する方法も考えられます。
これらの手続は合意は成立したものの、合意案の履行に不安があるときに有効です。
縁さんは、上記の手続きのうち「支払督促」を選択し、司法書士に裁判所書類作成を依頼しました。熊本簡易裁判所に支払督促を申し立ててすぐ、Aさんから慌てた様子で電話があり、冬のボーナスで一括で支払うから申立を取下げて欲しいと懇願されました。縁さんは、Aさんからの20万円の入金があったことを確認して、支払督促を取り下げました。
※今回は、支払督促を利用することでうまく解決できましたが、事例によって有効な手続きは異なります。
まずは、ツケを認めない、ツケを認めても上限を設けるなど紛争を予防することが大事です。
司法書士・AFP(ファイナンシャルプランナー) 廣濱 翔